地域課題が複雑化するなか、従来の制度やスキームの延長線上で、顕在化した課題に対症療法的に対応するだけでは限界があります。
地域おこし研究員が各地で挑んでいるのは、多様な立場の人々と協働し、新たな価値を共につくり出す仕組みづくりです。とはいえ、地域にそうした仕組みを立ち上げ、持続させていくことは簡単ではありません。
地域おこし研究員OB・OGたちは、どんな壁に直面し、それをどう乗り越えようとしているのでしょうか?それぞれの今を語ってもらいました。
梶 恵理(北海道東川町(東川町リビングラボ)/日本郵便)
北海道・東川町で、企業と地域が共に新しい価値を生み出す「共創」の仕組みづくりに取り組んでいます。2024年4月からは、「東川町リビングラボ」のコーディネーターとして、東川町や慶應SFC研究所と連携しながら、この取り組みを具体化しています。
東川町リビングラボで目指しているのは、行政と民間がフラットな関係で関わり合うこと。発注者と受注者という関係性を超え、課題も価値も一緒に探りながら、協働のプロセスそのものを設計していく営みです。
たとえば都市の企業人が東川町に滞在し、地域の日常に入り込んで対話や観察を重ねることで、地域ならではの価値観や暮らしに触れ、課題の本質が少しずつ浮かび上がってきます。その過程で、自社の存在意義を見つめ直すような気づきが生まれることもあります。そうした「共創の芽吹き」の瞬間に、これまで何度も立ち会ってきました。
ただ、こうした取り組みを継続していくには、参加する企業人にとっても相当な熱意と社内での理解が必要です。とくに「何が課題なのか」を見極めるプロセスは時間も手間もかかるため、社内の説得や合意形成の壁も大きく立ちはだかります。
だからこそ最近は、制度的な後押しの必要性を強く感じています。たとえば企業人材を「リビングラボ研究員」として自治体から正式に委嘱し、定期的に成果を報告・共有するような仕組みがあれば、活動の正当性や社内での説得力も高まり、取り組みが長く息づいていくのではないか。そんな仮説をもとに、仕組みづくりに取り組んでいます。

白石 俊栄(鹿児島県/鹿児島相互信用金庫)
大学院修了後、派遣元である鹿児島相互信用金庫に戻って、1年間「そうしん地域おこし研究所」でSDGs推進や自治体連携に取り組んだのち、現在は支店長として現場で地域の中小企業と向き合っています。
今、強く感じているのは、信用金庫が相互扶助を目的とした「協同組織金融機関」であることの意味です。お金を融通するだけでなく、地域や顧客とともに価値をつくっていく存在であるべきだということ。少子高齢化や競合激化のなかで、従来の金融サービスだけでは立ち行かなくなる未来が見えています。そんな時代だからこそ、「金融以外」で地域とどうつながれるかが問われています。
大学院では、理論と実践を往復しながら実学に取り組んできましたが、支店長として日々の業務に携わる今、その意味を現場でかみしめています。理念をただ掲げるだけでなく、それをお客さまとの関係性や新たな価値にどう結びつけるか。非金融領域を含めた支援や共創の形を、どう言語化し、再現性のあるものとして提示できるか。
まだ模索の途中ではありますが、信用金庫という立場だからこそできる価値の提供とは何か。その問いと向き合いながら、地域のなかで一歩ずつ実践を積み重ねています。

霧生 彩乃(和歌山県/和歌山県庁)
和歌山県庁の職員として、果樹振興や食品流通、農産物統計に関することなど、農業に関わる幅広い業務に携わっています。
暮らしているのは、みかんの一大産地として知られる有田地域。休日には、地元のみかん農家で収穫の手伝いをすることもあり、仕事とは別の形でも現場と関わり続けています。農作業を通じて、リアルな課題や喜びに触れることが、日々の業務を支える大きな糧になっています。
大学院時代には、鳥取県大山町をフィールドに、大学生と中学生が地域農業について学び合う「コミュニティ型起業家教育」の実証に取り組みました。農業者等地域の方々が教育の担い手となり、若者たちが「仕事としての農業」を実践的に学べるような仕組みをどう設計するか——その問いと向き合いながら、農業に関わる人を増やすための可能性を探ってきました。
実践を通じて導き出した仮説が、「繁忙期には農業者が若者をアルバイトとして受け入れ、閑散期には教育の時間を設ける」というモデルです。農業現場での実践を学びに転換するこのサイクルが、地域農業の未来をつなぐ鍵になるのではないかと考えました。
今も「農業に関心を持つ人を増やしたい」という思いは変わっていません。制度と現場の間をつなぎながら、農業が地域にとって持続可能な選択肢であり続けるよう、これからも実務の中で模索を続けていきたいと思います。

地域に新しい価値を生み出す仕組みづくりには、絶対的な正解となる方法論はありません。一人ひとりが既存の制度や組織の枠を越えて、地域の現場に深く入り込み、関係性の中で問いを立て、実践を積み重ねていくプロセスそのものが、その方法論なのかもしれません。