Column

行政は地域とどう向き合うのか?
―地域おこし研究員OB・OGの現在地②―

地域における価値共創の重要な担い手として、行政の存在は欠かせません。

これからの行政職員には、決められた業務をこなすだけでなく、地域住民と向き合い、深く関わり合いながら共に歩む姿勢が求められています。

行政職員でありながら、「地域おこし研究員」として現場で実践を積んだOBたちは今、それぞれの地域でどのような姿勢で、どのように行政のあり方を模索しているのでしょうか?

シンプルに、課題の源流へ

大木 翔太(岩手県花巻市)

岩手県の花巻市役所で、ふるさと納税やシティプロモーションの業務を担当しています。日々の業務は、どうしてもルーティンワークになりがちな部分もありますが、ふとした瞬間に思い出すのは、地域おこし研究員として過ごした日々。前例や慣習にとらわれずに試行錯誤を重ねた、あの時間が、今の自分の原点になっています。

地域課題が複雑さを増す中、行政に求められる役割もまた多様化しています。限られたリソースの中で、「何から着手すればいいのか?」「どこに効果的にアプローチすればいいのか?」という問いに日々向き合いながら、私は“課題の川上”に目を向けるようにしています。

現場で見える現象の背景には、もっと上流にある構造的な原因があるはず。だからこそ、目の前の課題に場当たり的に対応するのではなく、シンプルに、かつ本質的に「源流」を見つめ直す必要がある。そこに真正面から向き合い、施策という形に落とし込むことが、これからの行政の価値ではないかと思っています。

そのためには、日々の業務に流されるだけでなく、自ら学び、情報に触れ、多様な視点や知見を持つことが欠かせません。研究員時代に養った「アンテナを張る姿勢」や「柔軟な発想力」は、今の行政実務の中でも生きています。これからも、一つひとつの業務の先にある“まちの未来”を見据えながら、現場と向き合っていきます。

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信頼関係から始まる地域づくり

宮下 功大(鹿児島県大崎町)

鹿児島県の大崎町役場で、農林振興課に所属しています。米や転作に関する業務をはじめ、食育の推進、耕作放棄地対策など、地域農業に関わる幅広い業務に日々取り組んでいます。担い手不足や農地の集約といった課題は山積していますが、地域の未来を支える重要な分野に携わっている実感とやりがいがあります。

地域おこし研究員時代には、リサイクル率日本一を16回達成している大崎町のリサイクルの仕組みを対象に、住民・企業・行政の連携による「コミュニティ型リサイクルシステム」について、行政がどのようなアプローチをしてきたのかということを研究しました。その中で、地域解題の解決に大切なのは制度設計や政策手法の巧拙だけでなく、住民や行政職員などの関係者一人ひとりの“内なる部分”、例えば地域への愛着や未来志向の考え方、課題解決への熱意などが大きく関わっていることを実感しました。

現場で働く今、「人と人との関わり合い」を大切にすることを意識して仕事やプライベートに向き合っています。どんなに優れた制度や施策も、それを動かすのは人。異なる価値観を持つ人同士が信頼関係を築き、お互いの強みを生かしながら一緒に汗をかけるようになるには、心理的安全性が確保された対話の場が欠かせないと考えています。

そのために、日常のなかに自然と関わりが生まれるような仕組みをどう組み込むか、模索を続けています。たとえば雑談や立ち話の中にも、地域の本音や知恵が隠れている。そんな小さなやりとりも大切にしながら、地域に根ざした関係性を少しずつ積み重ねていくことで、住民、企業、行政それぞれの強みを活かした地域づくりにつながっていくのではないかと信じています。

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対話から始まる行政の姿勢

高橋 誠(岩手県花巻市)

岩手県花巻市役所で、戸籍の届出、福祉関連の申請受付、税の収納や申告など、いわば住民の日常に寄り添う窓口業務を担当しています。大学院で研究していたテーマと直接つながる業務ではないかもしれませんが、日々住民と接する現場で感じる小さな気づきや学びの積み重ねは、確実に今の自分をつくっています。

大学院での学びを通して、私自身に起きた最も大きな変化は、「対話」の力を信じられるようになったことです。もともと人との話し合いがあまり得意ではなく、自分の考えを変えることに抵抗を感じることもありました。でも、グループワークや研究の過程で、他者の意見に耳を傾け、対話の中で互いを理解し合う経験を何度も重ねました。

今では、たとえ業務内容が直接関係しなくても、「対話で相手を理解しようと努める」ことを自分の仕事の軸に据えています。複雑な地域課題に対して、正解を一方的に提示するのではなく、住民と同じ目線に立ち、言葉を交わしながら方向性を探っていく。そうした行政の姿勢こそが、これからの地域に求められていくのではないでしょうか。

制度や手続きに沿って業務を遂行するだけでなく、人と人との間に信頼や納得を築いていくこと。小さなまちの一職員としてできることは限られていても、その中で「よりよい関わり方」を問い続けていきたいと思っています。

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「現地・現物・対話」からはじまるまちづくり

伊藤 玲緒(北海道鷹栖町)

現在、故郷・北海道鷹栖町で地域プロジェクトマネージャーを務めながら、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の研究員としても活動しています。これまでの研究を実践につなげながら、今は2026年4月から予定している地域おこし研究員の受入準備も担当しており、自身がかつて研究員だった立場と、これから迎える側の両方の視点を行き来しています。

私のモットーは「現地・現物・対話」。地域おこし研究員時代に、実際に現場に住み、地域の方々と日々向き合いながらまちづくりに携わってきた経験が、今の行政実務にも大きく活きています。人口6400人という小さな町だからこそできる、顔の見える関係性を大切にしながら、住民の方々の現実に寄り添った取り組みを積み重ねています。

「住民の現実に寄り添う」と口で言うのは簡単ですが、本音を引き出すのは決して容易ではありません。だからこそ、何度も現場に足を運び、対話を重ね、信頼関係を築くことが大切です。行政職員として信頼を得ること、それ自体がまちづくりの基盤になると感じています。

これから受け入れる研究員の方々には、自身の研究に全力で向き合えるような環境を整えると同時に、町の行政職員や住民との関わりの中で、リアルな地域課題と向き合ってほしいと願っています。学生や若い研究者が、鷹栖町をフィールドに新たな知恵や発想を持ち込み、地域の人たちとともにまちを育てていく——そんな未来を、いま本気で描いています。

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行政にできることとは何か。制度を整えることだけではなく、日々の対話を重ねながら信頼を築き、住民と共に歩むこと——。その営みのなかに、これからの地域づくりのヒントがあるのかもしれません。

インタビュー・文:松浦生
(公開:2026.04.06)

参考