Researcher

生産者と料理人、消費者が信頼し合うコミュニティをつくりたい

太田 良冠(おおた りょうかん)

神奈川県横浜市出身、2013年関東学院大学 人間環境学部卒業。大学卒業後、株式会社ルクサに就職、高級飲食店のプロモーションコンサルタントとして約800店舗を訪問。新規事業の立ち上げにも携わる。その後、2016年2月に鹿児島県長島町の地域おこし協力隊に就任し、長島町の一次産品の販路開拓や料理人と地域をつなぐ「シェフツアー」の企画運営を手掛ける。

2016年2月 長島町地域おこし協力隊 就任
2017年9月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
2017年10月 地域おこし研究員 就任(第1号)
2019年9月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 修了
サッカー青年が、留学で「食」に目覚める

ずっとサッカーをやってきて、高校、大学はサッカーの実績を評価してもらい入学しました。でも、怪我をしてしまって。選手として続けるのが困難になり、2年次には、「自分は大学で何をしたかったんだっけ」と、見つめ直すことになりました。

その時、入試面接で「英語がやりたい」と話していたことを思いだして、Be動詞がわからないところから英語の勉強を始めました。アルバイトで留学資金を貯めて、奨学生として4年生の時にオレゴン州のカレッジに1セメスター留学することができたんです。

留学先のホストマザーはメキシコ出身の元シェフで、毎晩出してくれた料理は、日本で食べるメキシコ料理とは全く違っていました。でも、とても美味しかった。同じ名前の料理でも、国や地域によって全く違うということが面白くて。そこから「食」を意識するようになりました。

料理人との関わり、ゼロからつくりあげる面白さ

2012年12月下旬に留学を終えて帰国しました。周りの友人たちは、すでに就職活動が終わっていて。僕は、翌年1月から就職活動をはじめました。その中で紹介してもらった会社が、株式会社ルクサです。当時は40人ほどのベンチャー企業でしたが、尊敬できる社長、「食」に係る業務、経営者である父のアドバイスが決め手となり、入社を決めました。

就職してから、高級飲食店へ集客課題の解決提案を行っていました。在職していた3年間で約800店舗へ訪問し、多くの料理人と関係を築く中で、料理人の膨大な知識や情熱に圧倒されるのと同時に、素材を提供する一次産業と料理人の関係が希薄であることを知りました。そして、入社半年の頃に厳選レストランの予約サイトの立ち上げに係ることになり、ゼロから作り上げる体験ができたことで、新しいことに取り組むことの方が自分は好きなのかな、と思うようになりました。

次のステップ、長島町との出会い

仕事では、ルクサ会員と参画する飲食店のためのサービスを構築していましたが、入社して2年目くらいの時から、もっと幅広い層に対して貢献できないかなと悩みはじめていました。一次生産現場にも興味があって、オーストラリアで農業をやるために準備を進めていたのですが、途中で受け入れ予定の相手とぱったりと連絡が途絶えてしまって。ちょうどその時、長島町で地域おこし協力隊として活動していた、会社の元先輩から「長島町に来ないか」と声をかけてもらったんです。これもご縁だと思って、さっそく長島町を訪問しました。その後、面接を受けることになり、「採用進めるから、住むか辞めるか、あとは君次第だよ」と言われ、「やります」と即答しました。こうして2012年2月から長島町の地域おこし協力隊になることが決まりました。

地域おこし協力隊に就任してからは、生産者から、収入が安定するために直販サイトや商品のブランディングをやりたい、という声を頻繁に聞いていました。僕が持つ料理人とのつながりが活かせないかと考えて立ち上げたのが、辻調理師専門学校と連携した「長島大陸視察ツアー(シェフツアー)」です。情報発信力を持つ一流の料理人やバイヤーが長島町の生産現場を訪れ、生産者と直に交流することで取引の機会が増えれば、生産者は適正な価格で販路開拓や料理人による商品PRにつなげることができます。この企画は、昨年1年間で15回以上実施し、60名以上の関係者が長島町を訪れ、その年の食材総売上にも貢献することもできました。この経験を通じて、料理人と生産者がつながることが、地域の一次産業の発展につながると実感したんです。

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地域おこし協力隊での「気づき」を研究へ

「地域おこし研究員」として、長島町の一次生産現場から出る、市場には出回らない「廃棄食材」を活かして、料理人と生産者が一緒に収益を上げるモデルについて研究していきたいと考えています。長島町では、毎日コンテナ数十個分ほどの廃棄食材が出ています。現状では「廃棄」という通り、捨てるか、地域内でおすそ分けしている状態です。これまでの料理人との関わりを通じて、料理人は、見た目が悪くても、品質の良い食材を求めていることは知っていたし、シェフツアーなどの実践で得た気づきや長島町の一次生産現場の実態から、それらを組み合わせて、収益を上げる仕組みをつくることができないかと考えました。

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市場には出回らない、A級品と同等品質の廃棄食材を提案して、地域の食材を認知してもらう。そして情報発信力と食材プロデュース力に長けた一流料理人が自ら発信していけば、一般の消費者も地域と食材と生産者を知るきっかけになり、生産者の収益向上や商品PRにつながります。料理人と生産者が食材について情報交換したり、「こういう食材を作ってほしい」とか、「こんな風にできない?」と気軽に相談できる、信頼関係を生み出すコミュニティをつくりたいと考えています。長島町の生産者は、次世代のために何かアクションを起こす必要があると気づいていますが、営業のやり方とか人脈のつくり方のノウハウが少ない。そういった課題を僕のようなよそ者が関わって、一緒に取組むことが大事だと思っています。僕の意見ですが、まちづくりは最終的にはまちの人たちが自分たちでやっていかないと、絶対続かない。今は料理人と生産者の間に僕が入っていますけど、ゆくゆくは、僕が抜けて、彼らが直接言いたいことを言い合えれば、コミュニティが持続していくのだと考えています。

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「地域おこし研究員」での実践と研究を通じて、チャンスを掴みたい

地域の課題解決には知識を持っていることはもちろんですが、さまざまな領域の専門家と連携すること、そして実践するために圧倒的な行動力が求められます。地域おこし協力隊として半年ほど活動する中で、総務省から出向して昨年度まで長島町の副町長を務めていた井上貴至さんや、長島町の地方創生統括監を務めている土井隆さんの活躍を間近で見ていて、今の自分の能力と視野では、任期後に独立して事業を始めるには全然足りないと感じていました。あと、自分のやってきたことがちゃんと第三者のためになるように形に残していきたいとも。その時、「地域おこし研究員」として「実践」しながら、大学院で学び、助言や指導を受けながら「研究」と「開発」をする、という方法があること知りました。

27歳の今、且つ地域おこし協力隊で経験を積んだこの時期に、「地域おこし研究員」として学びながら実践できる可能性があることは、とても恵まれているのではないかと思ったんです。

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もう一つは、SFCの卒業生や学生の皆さんを見ていると、自由で縛られていない。そういった雰囲気や文化がとても魅力的でした。任期後に独立した時、地域の課題を解決するような仕事を始めるにあたって、社会イノベータコースで学ぶことがその基盤になるのではないかと思っています。

中学生みたいな言い方ですけど、この2年間でやれることは全部やってみたいです。地域おこし研究員はあくまでもきっかけで、自分がやりたいことに集中できる環境が目の前にできて、そのチャンスを掴みたいと思っています。僕はもともと、何かをやる前にいろいろ考えすぎて躊躇するところがあって。地域おこし協力隊になってからは徐々にスピード感をもって動けるようになってきましたが、これから理論的な考え方や手法を身に着けて、さらに加速しながら実践の基盤を作っていきたいです。結果がついてきて始めてロールモデルとして認めてもらえると思うので、自分が目指すところを設定して、やるべきことを淡々と進めていく事が大事だと思っています。

長島町で実践できれば、日本の他の地域でもできるはずなので、研究を通じてそれを示していけるようになりたいです。長島町は、何かやろうと思った時に受け入れてくれる度量の深さがあります。人はみんな明るいです。若い生産者も多く、すごくはつらつとしていて、やる気のある人がたくさんいます。この長島町で、僕は環境を自分で整え、地域の方々や地域外の専門家などの力をかりながら良い意味での「他力本願」で乗り越えることが大事だと学びました。なので、何かあればいつでも相談できて、そのジャンルのプロである仲間をたくさんつくっていきたいです。

(2017.10.23)

研究資料

参考