Researcher

「スポーツのちから」で人をつなげ、まちをひとつに

平 紀和(たいら のりかず)

新潟県新潟市出身。20年間都内のアパレルメーカーに勤務し、長く輸入部門を担当した。2005年に慶應義塾大学文学部通信教育課程入学。学業の傍らスタイリストとしても独立し、テレビ局の専属として、アナウンサーをはじめとする著名人のコーディネートを担当する。2014年に文学部卒業。翌2015年に総合政策学部の3年次に編入学し、神奈川県茅ケ崎市を中心に多世代の交流の場づくりを展開するNPO法人の活動を対象に研究した。2018年4月慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程入学。新潟県三条市の地域おこし研究員に就任。

2018年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
2018年4月 三条市 地域おこし研究員 就任(第5号)
「天職」を見つけた

子どもの頃から映画が大好きでした。父親がフランスやイタリア等、いろいろな映画を見せてくれて。そのお陰か小学校では、学芸会の時期になれば自分で芝居書いたり、演出したり。映画に感化されることが多かったですし、洋服の着こなしなども映画から学びました。高校卒業後は好きな映像を学ぼうと、映像の専門学校に進みました。

専門学校卒業後は子どもの頃から好きだったお芝居の世界に。でも、とても壮絶なものでした。稽古が終わるのは夜9時頃から10時頃。その後11時から朝4時までラーメン屋さんでアルバイトしていたのですが、練習が長引くと行けない日があるんです。配役に就けば、ほとんど行けない。当時2万1千円のトイレ共同、風呂なしのアパートに住んでましたが、そこも3か月家賃滞納みたいな・・・。どんどんお金がなくなりました。役者は舞台の上に立ってなんぼの世界ですが、当時は大変な貧乏生活だったと思います。そんな中、役者の大先輩が「うまいやつはいくらでもいる。続けるのが才能だ」と話してくれたことが転機になりました。僕は、ジーパンはいつでもリーバイスを履きたいし、Tシャツはセントジェームスを着たい。この生活をしながら役者を続けられるのかと考えた時、「あぁ、俺には続けられない」と思ったんです。先輩の言葉をきっかけに、これから自分が長く食べていくのは、映画と共に好きだった洋服の世界だなということに気づかされました。

劇団は1年半で退団して、次に務めたのがアパレルメーカーです。休日には他の洋服屋さんをリサーチして回って、洋服のために休みなく働くことは全く苦にならなかった。とても性に合っていました。代官山の店で修行して、1年半で副店長、5年目には店長になりました。そして29歳の時に輸入部門に配属されて、海外へ買い付けに出るようになりました。やればやるほど、仕事に返ってくるという実感がありました。

自分には何が足りないんだろう

40歳の時に、慶應義塾大学の文学部通信教育課程に入学しました。海外の仕事で関わることが多かったイタリア人に大きな影響を受けました。彼らは、いつでも私に対して真摯に対応し、且つ政治から芸術文化までユーモアを交えながら話す。それでいて、スポーツにも長けて地域の人にも慕われて・・・。そういうイタリア人たちと関わるうちに、「自分に何が足りないんだろう」と考えるようになりました。

その年に、慶應義塾高校が甲子園に出場したことからも刺激を受けました。まさか甲子園に出るなんて誰も想像してなかったと思います。試合では、とても良い野球をしてくれて、「俺もまだまだ力が残っているうちにやらないと」と、働きながら大学で学ぶことを決意しました。

通信教育を受けている最中、44歳でスタイリストとしても独立しました。テレビ局のアナウンサーに知り合いがいて、個人的な買い物に何度か付き合っているうちに「スタイリストになってほしい」と言われて。44歳というと、会社では管理職になるタイミングで、現場から離れなければならない。自分は部下の指導や管理よりは、まだまだ現場でやりたかったこともあって、思い切って独立しました。福澤先生の「独立自尊」ではないですが、会社に依存するのではなく、まず自分で立つのも良いかなと。自分には「精神的な独立」が必要だと思ったんです。

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「お祭り」を通じて、まちづくりを知る

文学部通信教育課程では、有末賢教授の下で日本のお祭りについて研究をしました。神奈川県葉山町にある森戸海岸で開催されてきたお祭りを対象として、時代と共になくなりつつあったお祭りが、どのようにして復活し、約1000人もの人が集まるお祭りに変わっていったのか、比較対象に400年続く北九州の小倉祇園太鼓を選び、葉山町のお祭りと共通する現代性について研究しました。葉山町には、私の事務所があります。大好きな場所ですし、研究を始めたことで、それまで見ているだけだったお祭りに私自身も深く関わるようになっていきました。卒業論文が完成するのに4年かかってしまいましたが、様々な地域で調査し、とても充実した日々でした。

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そして、お祭りの研究に取り組む中で「まちづくり」って重要だなと考えるようになったんです。お祭りは「ハレ」の日だけに行われますが、「ケ」の日も地域にしっかり根付いている。目には見えないものだけど、地域の構造やつながりがあるからこそ、お祭りが充実することもわかってきて。そのために「まちづくり」がとても重要なんだと思うようになりました。そういったことから、もう少し深めてみようと2015年に湘南藤沢キャンパス(SFC)の3年次に編入することにしたんです。

SFCでは、神奈川県茅ケ崎市にあるショッピングセンターの一角で、多世代の交流の場づくりや地域の課題解決に取り組むNPO法人の活動について調査研究しました。日本各地にシャッター商店街がありますが、こういった交流の場や多世代が共に活動する機会を作っていくことが活性化に寄与するのではないか、と考えています。

俺がやるべきテーマ

卒業研究はとても充実していましたが、この間、少し仕事が疎かになっているところもあったので、立て直しをしたいと思っていました。いずれ大学院に挑戦したいとは思っていたんですが、まだ先のことと思っていました。でも、地域おこし研究員の制度ができたこと、そして三条市と協定を締結したことを知ってしまって・・・。

慶應義塾大学SFCの関係者が旗振りをして、三条市で「大学野球サマーリーグ」(東京六大学野球連盟や東都大学野球連盟に所属する8つの大学野球部によるリーグ戦。地元の大学や高校とも交流試合を行うなど、地域貢献プログラムも展開している)が生まれ、継続的に行われていることは、前から知っていて気になってました。三条市で地域おこし研究員を募集すると聞いたとき、新潟出身者の実感として、新潟や三条のまちづくりと大学スポーツが連携した仕組みづくりや、新潟の中で認知を広め、盛り上げていくために研究開発することがいろいろとあるんじゃないか・・・と思ったんです。

いてもたってもいられなくて、昨年(2017年)8月の説明会に参加して、これまで自分が学び、実感してきたことと照らし合わせて、これは「俺がやるべきテーマ」であり、「やりたいテーマ」だと思いました。スポーツまちづくりは、現代的な「お祭り」の要素もあって、日常の「まちづくり」にもつながるものです。「みんなごと」として取り組んで、つながりを増やして、地域を元気にしたり、スポーツを通じて、さまざまな挑戦を生み出したりできることが魅力だと思います。

大学院をめざすにあたって、三条市でフィールド調査をし、慶應義塾大学の玉村先生や松橋先生にアドバイスをもらいながら、『大学スポーツと連携した地域協働型スポーツイベントの実践と評価-新潟県三条市における大学野球サマーリーグの事業モデルの構築』というテーマを掲げて、入学しました。大学野球サマーリーグの事業継続性を高めるための実践と、その評価を通じて、大学スポーツと連携して、地域の多様な人々を巻き込んだ地域協働型スポーツイベントの事業モデルの構築に取り組みたいと考えています。

「個」と「公」のバランスを身に付ける

4月から大学院の授業の1つとして「個益公益のデザイン」という授業を履修していますが、まさに自分の欲していることを学んでいると実感しています。この授業の科目概要には、以下の説明があります。

この授業は、社会を変えるために、個益になる事業を起こして持続的に公益を実現してゆくという、新しい生き方を構想する力と実践する力を学ぶ科目である。環境・ビジネス・社会起業など様々な分野における社会起業の事例を通して、「個益」を促進する「インセンティブシステム」を導入する方法、「公益」をもたらす「協働」を成立させる方法、「協働の果実」を「公平に配分する仕組み」などを議論する。(抜粋)

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これまで民間企業やフリーランスで働いてきたので、「個」や「私」のことは分かる。でも、地域に入るにあたって、第3セクターをはじめとする「公」的な組織や行政とも一緒に取り組む場面が出てきます。それぞれの特性を理解するだけではなく、協働による相乗効果を生み出すことも重要です。むしろそれがないとまちづくりはできません。そういった「個」と「公」のバランス感覚を身に付け、いかに地域のステイクホルダーが集まって情報を交換しながら、新たなアイデアが生まれるプラットフォームを創ることができるのか、そして地域協働型スポーツイベント事業モデルを構築していくか、授業を通じて見えてくるのではないかと考えています。この授業に限らず、大学院政策・メディア研究科の授業やプロジェクトでの学びや課題に、地域での現場をもちながら、主体的に取組んでいくことで、自分の基盤となるチカラを鍛えていきたいです。

三条には、地域に根付き愛されている「NPO法人ソーシャルファームさんじょう」という組織があり、多くの地域おこし協力隊の方々もそこを拠点に活動しています。そして、私よりも先に地域おこし研究員として活動している野村直己くんもいます。そういった人と協力しながら、ともに学び、研究開発と実践の相乗効果を追求していきたいと思います。

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(2018.05.17)

参考