Researcher

大学生の力と可能性が、コミュニティの財産になる

松浦 生(まつうら いくる)

東京都日野市出身。2019年3月公立鳥取環境大学卒業。大学では、植物生態学を専門とし、水草の繁殖について研究した。また、在学中に鳥取県用瀬町で大学の有志と「挑戦する大学生と暮らす宿」をコンセプトにした「もちがせ週末住人の家」を立上げ、地域内外から訪れた大学生が一定期間暮らしながら、地域活動に参加したり住民と交流したりするプログラムの企画・運営を行う。2019年4月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程に入学。大山町の地域おこし研究員に就任

2019年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
2019年4月 大山町 地域おこし研究員 就任(第11号)
遊びも学びも自分でつくるもの

僕は、生まれも育ちも東京ですが、お金を出して消費する遊びをしたことはありませんでした。家には市販のゲームはないし、遊園地も行ったことがありません。テレビは唯一、父と共通の趣味であるサッカーしか見せてもらえませんでした。少し変わった家庭環境でしたが、「なんでうちだけゲームできないの?」ということもなく、それが当たり前だと思っていました。小学校に通学する30分くらいの間に、友達がゲームの話してると「俺の前でゲームの話すんな」なんて言って。今思えば、よく言ったなとは思いますけど、友達もそういう奴だと思ってつき合ってくれて。一緒に探検したり、自分たちで遊びをつくっていました。

小学校4年生の時に引っ越すことになり、シュタイナー学校へ転校しました。もともと自然の中で遊ぶことや絵を描くことが好きだったので、学校生活はとても楽しかったです。学校では、遊びの延長のような感じで、手足を動かしながら学んでいきます。小学校3、4年だと、ある動物のことを学ぶ時には、まず先生がその動物について説明してそれを各自が描く。その次に、その動物の生態はどうなってるか、先生がまた話ししてくれて。またそれを書き写していきます。書きながら自分の教科書を自分で創っていくんです。学校には、いろんなタイプの子がいましたが、一クラス12、3人くらいで12年生(高校3年生)まで一緒に育つので、今も家族のような関係です。

人生のテーマ

僕は小学校の頃から自然の中で遊ぶことが好きでしたが、おぼろげに人間の生活と自然のサイクルには相入れないものがあるのかな・・・と思っていました。8年生(中学3年生)に、自分でテーマを決めて1年間取り組み成果を発表する「プロジェクト発表」があるんですが、その頃に生物学者のデヴィッド・スズキ氏の著書「いのちの中にある地球」を読んで、自分で考えていたことが世の中では「環境問題」として捉えられていて、さまざまな取り組みがあることを知りました。その時から、「環境」というのが自分の人生のテーマだと思うようになったんだと思います。

でも、高等部に進み3週間ほど農家に住み込んで農業を学んだり、谷津干潟の自然観察施設でインターンをさせてもらったりする中で、「環境」は僕の大きなテーマではありますが、「環境、環境」と声高にいうのも変だなと思うようになりました。「どうせ環境保護者が言ってるんでしょ?」というのでは、世の中の多くに受け入れてもらない。それでは先に進めないのではないか、と思ったんです。ちょうど「地方創生」という言葉が出始め、地方に注目が集まってきた頃だったと思います。生態学の視点を地域社会に持ち込むことで、人間社会のシステムと自然のサイクルが調和したデザインができるんじゃないと思って。高等部では、「現代版里山コミュニティの実現」をテーマに研究しました。公立鳥取環境大学への進学を決めたのは、環境大の先生の動物行動学の著書を読んだことがきっかけです。環境を社会と自然からの両方の視点からみたいというのと、机上ではなくて実社会で試してみたい、と思った時にそれが実現できるのが環境大学ではないか、と思いました。

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起業部で地域を知る

実は、大学1,2年生の頃はくすぶっていました。面白い先生方がいるのに、授業にはなかなかなじめなくて・・・。でも入部した「起業部」では、鳥取の色々なまち入ることはできたので、鳥取や地方の面白さを実感していました。起業部は1年上の岩田直樹くんが立上げた部活です。最初は得体の知らないところだなと思っていたんですが、友達に誘われたて入部してからは、まんまとはまってしまいました・・・。

用瀬(もちがせ)というまちに関わるようになったのは、2年生の時です。2004年に鳥取市と合併した人口約3500人のまちなのですが、当時支所長をされていた方から「何かやらない?」と僕らに声を掛けて下さって。起業部の最初の1年は、一人で大学近隣のおばあちゃんがつくった「売らない野菜」を大学内で売るなど、いろいろとやっていました。けど、出先でちょっとやる程度でどれも中途半端に終わったような気がして。次やる時にはちゃんとコミットしたい、という思いがありました。なので、用瀬の話が出てきた時は「まずは週末だけでも住んでみるか」という発想で、動きました。

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もちがせ週末住人の家

用瀬に入ってからは、声をかけられたらどこへでも行くと最初から決めていました。住み始めた頃、僕らが網戸を広げていると近所の人に「何してる?」って声をかけられて。「『お山さん』のお祭りがあるから、手伝いに来い」って言われて。僕らも「やるやる」って、手伝いに行きました。それが用瀬のまちに入っていったはじまりだと思います。家具や食器、布団もみんな、まちの方々からのいただきものです。大変は大変だったと思うんですけど。それが当たり前でした。

鳥取県は「ボランティア先進県」とも言われていますが、そこで暮らす人のモチベーションは、総事(そうごと)が終わった後の飲み会にしか向いていない。それがとても自然体で。でも一旦地域で何かをする時、指揮官がいないのに誰もが勝手に役割を心得ていて、わっと事がなされていく。これがすごい。用瀬は、特にそうした人の結束のようなものが強いんじゃないかなと思いました。

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用瀬では「もちがせ週末住人の家」という、地域内外から訪れた大学生が一定の期間、用瀬で暮らし地域活動に参加したり住民と交流しながら、暮らすからこそできる小さな挑戦を積み重ねていく場を企画・運営をしています。このしくみを考えるにあたって、訪れる大学生が課題も価値も含めた地域の生活実感を持つこと、そしてまずは住人にならないと地域には受け入れてもらえないと考えていました。これまで3年で約2000泊・人の滞在を実現し、今後も用瀬に継続的に関わり続けたいという思いを持った全国の仲間は70人を超えました。何度も通う内に鳥取で就職を決め、移住してきちゃったメンバーもいます。

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未来の仲間づくりのために

環境大学で一番学んだことは、環境問題の主語は「人間」で、環境問題を考えるということは、人間社会の持続性を考えることだ、ということです。あらゆる場面での持続性を考えていかないと、何かと何かのトレードオフになることだって当然あり得る。でも、それらの問題を全部一人で考えることは、とても無理です。いろいろな分野の将来プロフェッショナルになりうる仲間がいないと追求できないと思って。SFCは学びの環境としてはめちゃくちゃ良いのではないかと思いました。もう一つは、生態学をやっていると、ただの生き物マニアがなりやすくて、社会との乖離が大きい気がしています。そこを翻訳できる人になりたいなと思いました。

入学してから約10ヶ月間、物事を考える時の構造というか、道具を見つけている感じです。すごいトレーニングしている感じがしています。あと、年齢もバックグラウンドも違う人たちとどうやって議論するか、コミュニケーションとるかということも。こうした「ぶつかり合い」の結果が社会とかまちなんだと思うようになりました。

「だいせん週末住人」モデルをつくる

僕が地域おこし研究員として就任した大山町では、「もちがせ週末住人の家」を一つのモデルとして、大学生が週末の度にまちのなかで溶け込むしくみ、当たり前のように暮らすしくみをつくろうとしています。大学生であるということは、今後どう生きていこうか模索する期間であるし、いろいろ考えすぎてしまいがちな時期でもあります。その時に用瀬や大山のようなまちに来れば、考えていることを小さくても試してみることができます。地域側からみると、若く挑戦する人の舞台をつくっていくと、その人たちが地域の担い手になっていく可能性もあるんです。大学生にその土地の資源を使って、その土地の人と関わりを大事にしながら何か新しいものを生み出せるということを体感してもらうことで、まちとの関わり方を主体的に考えることができるようになるのではないか、と考えています。

昨年から、モニターとして大学生を募集して、月1回くらいから大山町に通って、暮らしてもらう状況をつくっています。まちの人の家にホームステイをしてもらい、まちの方々にも協力してもらいながら、起きてから寝るまで大学生と一緒に動いています。

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コミュニティに財産を残していく

大山町には、信念を持って自分たちが楽しいことを生み出すんだ、というエネルギーに溢れている人がたくさんいます。その人たちの隣で走らせてもらい、情報をしっかり可視化して大山町に通う学生に見せていきたいと思います。

これまでは、代々その土地に一定数人がいる状態だったのが、現代はどの土地やコミュニティでも人数としての人材は減っています。それでも地域のベースになるような人材が流動的に常に存在し、人が蓄えている知識をアーカイブ化していく、コミュニティの財産として残していくようなしくみを目指して、大山町で取り組んでいきたいです。

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(2020.01.17)

研究資料

参考