1985年生まれ。神奈川県座間市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、楽天株式会社を経て、株式会社ルクサにてEC事業に従事。2012年、株式会社コアース設立。WEBサービスのプロデュースを事業とし、慶應義塾大学SFC研究所所員として地域社会における教育の研究を行う一方、2017年より鹿児島県⻑島町の地方創生統括監として地方創生の現場での取り組みを行っている。2021年4月に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程入学。同年、鹿児島県長島町で活動する地域おこし研究員として活動を始める。
● | 2017年6月 | 長島町 地方創生統括監 就任 |
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● | 2021年4月 | 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学 |
● | 2021年4月 | 地域おこし研究員 就任(第17号、長島町) |
● | 2023年3月 | 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 修了 |
僕は、慶應義塾大学SFCの環境情報学部の出身です。大学時代は、マーケティングやNPO法人の制度設計などに関わることを学びました。
研究会では金子郁容先生のご指導のもと、慶應義塾大学SFCが藤沢市等と開始した「市民電子会議室実験プロジェクト」に参加し、プロジェクトに携わりながら「市民電子会議室」という枠組みの中で、市民の意見や提案事項が市政に適切に反映されるためには、藤沢市と市民とがどのようなコミュニケーションを構築すれば良いのかという研究に取り組みました。
慶應義塾大学SFC卒業後は、インターネットを軸として色々な会社・仕事に携わってきました。まず新卒時には楽天に入社して、同社のECコンサルタントとして楽天市場で様々な会社が取り扱う商品の販売促進を手がけました。その後、株式会社ルクサに転職。ルクサでも、インターネットを使った通販事業や新規事業の立ち上げなどに関わりました。
そしてルクサの在職中に、現在の僕自身の核となる仕事の一つである「株式会社コアース」を設立しました。今まで関わってきた仕事に共通することは、インターネット、ICTの技術を使って、通信販売のように誰かの役に立つ仕組みを作ることだと思います。今は、事業者さんの通販のお手伝いだけではなく、都市圏・地方を問わず住民の皆さん、自治体の方々、そういう多種多様な方々に対してインターネットでできることを創っていくことが、仕事として広がってきています。 そして、縁あって、2015年に鹿児島県長島町の地域おこし協力隊として任用されました。そして長島町に住みながら、特産品のインターネットでの販売をお手伝いするところからはじめました。
その後、長島町では「地方創生統括監」という役職をいただき、いろんなことにチャレンジしましたし、長島町の役場職員や住民の皆さん、事業者の方々と一緒になって、いろいろな仕組みや仕掛けを作り上げました。また長島町と連携協定を締結している慶應義塾大学SFC研究所とともに、地方創生総合戦略の策定・改定などもしてきました。
鹿児島県長島町は人口規模約1万人の町ですが、実際に地方の小規模自治体、そしてそこにある集落、人の営みといったものを目の前に見ながら仕事をするのは初めてでしたし、仕組み・仕掛けを創っていく中で、自分が地方で「やれること」や、「やりたいこと」がたくさんあることを実感しました。
長島町で活動することになった結果、どうしても「地方に移住して仕事を作っている」という側面が出てきます。そうすると、色々な方から「どうして地方で仕事をすることになったんですか」ですとか、「地方の課題解決に取り組んでいるんですね」と言われるようになります。僕は、この言葉に違和感があります。
僕は、インターネットとかICTとかの仕組みに魅力を感じています。さらに言えば、人との出会いで仕事を作ってきたんだという思いもあります。ICTの技術を使った仕事で誰かの役に立つのが嬉しいですし、その人が紹介してくれる人とまた新しい仕事が出来てくること自体も楽しい。 例えば、知人の紹介でできたつながりから自治体の方と「町のホームページに求人サービスを取り入れましょう」というような仕事が生まれました。また、商店街の方と意気投合して「商店街のホームページを作って、情報発信していきましょう」と提案して実現したお仕事もありました。政治家の方のホームページを作るお仕事なども、人とのつながりから生まれたICTの仕事です。いわゆる「地方だから」とかという理由で仕事に向き合ってきたわけではありません。楽天時代に取り組んでいた販売促進の仕事も、結果として地域のためになっていると思っています。
そういう意味で、「この仕事は地方のためになっている」ですとか、「これは地域のためではない」というように分けられるものではないのではないでしょうか。自分がこれまでに取り組んできた仕事は、誰かのためになっている仕事だと確信していますし、マクロ的な目線で言えば、僕の仕事は全て、最終的には地域のためになっていると感じています。
さらに言えば、「課題解決に取り組んでる」という言葉も、偉そうな気がして好きではありません。自分のスキルでできることがあって、誰かの役に立つことが仕事をしていて楽しいと感じる部分であり、楽しいからまた次の仕事をやりたくなり、それが実際に仕事につながっているんです。「課題があるから解決しましょう」ではなく、「魅力があるから、魅力を活かしてもっと楽しくしていきましょう」の方が、本来やるべきことだと考えていますし、自分がやりたいことです。
僕が慶應義塾大学SFCの学部生時代に『「やりたいこと」「役に立つこと」「できること」』という言葉を言われました。僕自身とても大事にしている言葉ですが、まさに、この言葉が表す「自分が好きなこと」かつ「自分の得意なこと」が、「誰かのためになっている」と感じられるかどうか。これが僕の仕事の原点なんです。そこに地方も都市圏もないと考えています。
ただ、やはり自治体と仕事をしていると、自治体の行っている取り組み、いわゆる「地方創生の活動事例」のような情報を目にし、耳にする機会は増えました。「地方創生」というキーワードが出てきたのは2015年前後ですが、実際にはそれ以前から各地でうまくいっては消えていくサービスがたくさんありました。また地方創生で生まれたと言われる事例は、実際にそこに住む人たちにとって良い面もあれば悪い面もあるのではないでしょうか。また、各地の成功事例もよく調査してみると、最初は素晴らしい取り組みと言われた事例であっても、関わる人が変わり時代が変わることで続けられなくなっていくものも多いように思います。さらには、成功した地域の仕組みを単純に横展開して外部から専門家やシステムを導入するだけの活動などが横行している実態も聞こえてきます。
自分自身も、「○○自治体で生まれた成功事例」という話を聞いて、「それって、その地域だからこそできたんじゃないの?」のと思うことがたくさんありました。このような経験から、本当の意味で三方良しの仕組みを持続的、かつ汎用的にしていくための仕組みとは何かということについて考えるようになってきました。そういう理論を体系化することが、本当の意味で地方創生の成功事例として意味のあることになるのではないか。例えば、自分が作った制度とか仕事が「長島だからできたんでしょ」と言われた時に、「こういうコミュニティを構築したから長島町で人の役に立つ、長く続く仕組みになった。そしてこの仕組みは、こういう工夫をすることでどんな地域でも取り入れられる、横展開することができる仕組みになんです」と、きちんと説明できるモデルを作っていきたいと思っています。そして、体系的で汎用的な仕事や仕組みを作っていくためには、アカデミックなアプローチが有効なのではないかと考え至るようになりました。今までの自分の活動を通した研究をすることで、より本質的な仕事や意味のあることを創っていきたいと考えるようになったのが、大学院への進学を考えることになったきっかけです。
さらに、新型コロナウイルス感染症の影響もあります。僕自身、先述のとおり人と会い、人とつながるなかで仕事を作ってきました。そんな時、2019年に発生した「新型コロナウイルス感染症」は、僕にとって人との出会いや仕事のあり方を大きく変えてしまうようなネガティブなインパクトがありました。2019年から2020年という時期は、これからどう仕事を作っていくか。コロナ禍において自分にできることは何か。色々と考えさせられる時期でした。そして、「アウトプットを出しづらい環境だからこそ、インプットを増やそう」と感じたんです。リカレント、学び直しです。もともとなんとなくですが、インプットが最近足りていないと感じていましたので、ちょうど良いタイミングでした。
ちょうどその時期に、自分が疑問や自分のなかでの課題感のあった、地域に本当の意味で三方良しの仕組みを作ることを研究してみてはどうかと慶應義塾大学SFCの教授の勧めがありました。同大学は僕の母校でもありますし、今の活動拠点の一つである鹿児島県長島町の連携協定先でもあります。また身の回りにSFCの大学院で学び直しに進む知人が多い、というのも一つポイントでした。
コロナは、ネガティブなインパクトだけでなくZoomなどの普及ももたらしたと思います。特に慶應義塾大学SFCでは、オンラインとオンキャンパスの併存を掲げ、多様な学びかたを提供しています。どこでも、誰でも学ぶことができるという教育環境や制度を準備しているという意味で、大変魅力的な大学の一つだと思います。
僕の研究テーマは、「条件不利地域における未来技術の実装を促すコミュニティモデル」になります。特に小規模な自治体においては、その地域の魅力の最大化を図るために活用できる未来技術の実装、つまりテクノロジーの社会実装を行ううえで大きな変革の可能性を秘めています。
ただ、これまで僕が行ってきた研究の結果、人口規模が小さい自治体ほど、「未来技術」をもった企業等との連携協定の数が少なそうだという知見が得られました。つまり小規模自治体が未来技術を実装するにおいては、何らかのハードルがあるはずです。現時点の仮説としては、結果の不確実性やコスト負担の関係から、①未来技術を持ったテック企業が、小規模自治体へ参入する機会が少ない。②自治体の予算規模を要因として実証実験への取り組みが少ない。の2点があるのではないかと考えています。
これらの研究を進めるため、僕自身が参画して進めている、人口約1万人の有人離島である鹿児島県長島町における未来技術の導入に対して参与観察を行っていきます。
研究においては、具体性と抽象性の間で行き来を繰り返しながら得られた知見がどこまで適用できるのか、どの領域における未知の部分が明らかになったといえるのかを考えていきます。まずは、「条件不利地域=有人離島」という条件に絞り、まずは研究の具体性を高めようと思っています。 そして、研究を通じて僕がこれまで取り組んできたことを体系化し、汎用性を高めて、楽しく、発展的で、そして『「やりたいこと」「役に立つこと」「できること」』が重なる、そんな仕事を創っていきたいと考えています。