Researcher

竹福商連携による竹の資源化モデルの構築と実践 ―鹿児島県大崎町での実証―

田中 力(たなか つとむ)

東京都江東区出身。2007年3月広島大学 工学部第四類 地球環境工学課程を卒業。大学では、リモートセンシングによる藻場・サンゴ礁の底質マッピング手法について研究。2007年4月広島県庁に入庁。県庁では、環境政策課、循環型社会課、環境県民総務課、産業廃棄物対策課などを経験。環境政策課では、里山の未利用材をバイオマス燃料として地域内で活用するための仕組みづくりを担当。各地の地域コミュニティと関わる中で、人口減少下における地域コミュニティのあり方、竹材の利用促進、障害者や高齢者の働く機会の創出に関心を持つ。2022年4月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程に入学。「資源リサイクル率14回日本一の町」大崎町の地域おこし研究員(政策研究員)に就任。

2022年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
2022年4月 地域おこし研究員 就任(第20号、大崎町)
地域おこし研究員として呼びかけた「多様な主体による連携」

私は、2022年4月、地域の未利用資源の活用を地域住民らが担う仕組を実践しようと、地域おこし研究員として「資源リサイクル率14回日本一の町」である大崎町に着任致しました。「高齢者や障がい者の就労意欲を引き出し、社会参加と生きがいづくりの場をつくりたい」という思いで、町内の障害者支援施設2箇所、地域住民(宮園自治公民館)、食品加工事業者(干し芋製造)、大崎町社会福祉協議会、慶應義塾大学、大崎町役場の連携体制を構築しました。

photo

大崎町地域おこし研究員に就任した田中力(右)と東靖弘町長

photo

地域住民、障害者支援施設、食品加工事業者の連携による竹の資源化モデル

実証モデルの関係者とその役割

  1. 地域住民(宮園自治公民館):山林所有者と調整、活動フィールドの無償提供、障害者支援施設との合同作業
  2. 障害者支援施設(ひふみよベースファーム大崎):竹林整備、開放型炭化器による竹炭製造及び回収
  3. 障害者支援施設(社会福祉法人愛生会):圃場へ竹炭散布、サツマイモ栽培、干し芋の販売
  4. 食品加工事業者(株式会社コーセン):障害者支援施設(社会福祉法人愛生会)が栽培したサツマイモを加工し、干し芋を製造
  5. 大崎町社会福祉協議会:障害者支援施設や地域住民の活動支援
  6. 慶應義塾大学:実証試験全般の実施、関係者への施策提言
  7. 大崎町役場:町広報誌やラジオによる広報、開放型炭化器の無償貸出、実証試験全般への支援

photo

障がい者・高齢者による竹林整備

photo

開放型炭化器による竹炭製造

photo

ひふみよベースファーム大崎による竹炭回収

photo

社会福祉法人愛生会による竹炭散布

photo

製造した干し芋「結紡(ゆいつむぎ)」

人と竹の共生関係を築く

「毎週木曜日の午前、秋~冬明けまでの間、鹿児島県大崎町では竹林整備が行われてきました。誰が参加してもいい、どんな作業をしてもいい、何もしなくてもいい、ただ居て良い空間があります。竹林整備をとおしたコミュニケーション、いつもと変わらない日常の中で共通の時間を過ごす、特別なことはない、会話がなくてもいい、ただ周りの人の息遣いにほっとする、そんな竹林整備の時間を大事にしてきました。」

この文章は令和5年4月15日に発行された「分館報おおさき」に掲載されたものです。秋~冬明けまでの間に週1回、障がい者や高齢者が竹林を手入れし、そこで出てくる不用な竹を竹炭にします。そして、竹炭はサツマイモ畑の土壌改良に使われ、収穫したサツマイモは干し芋に加工し、特産品「愛生会の干し芋」として販売します。竹炭を土壌改良に活用することで、農地への炭素貯留による地球温暖化対策にもつなげています。この一連の実践は、多様な主体の協働による新たな農福連携の形を示したものです。「竹林整備や、竹炭・干しいもづくりが、人と人とを紡ぎ、そして結ぶ。」、そんな人と竹の共生関係を築くことを私たちは目指しています。

photo

地域住民による竹林整備

photo

休憩時間を過ごす地域住民

【竹炭の特徴】
  1. アルカリ性のため酸性土壌のpHを調節
  2. 多孔質構造のため、土壌の透水性、保水性、通気性を改善
  3. 植物の成長に必要なミネラル(カリウムやナトリウムなど)を含む
  4. 農地への竹炭貯留は、地球温暖化対策にもつながる
(出典:農林水産省、林野庁)
放置竹林を地域の資源として活かす

竹の資源化モデルが導入された結果、障がい者や高齢者が放置竹林の整備や竹材加工の担い手となり、竹林整備が促進されています。2022年9月~2023年3月末までに、計27日54時間、延べ347名が竹林整備を行い、伐採した竹の炭化処理をしたことで、3,027平方メートルの放置竹林が管理竹林となりました。なお、製造した竹炭は社会福祉法人愛生会に販売されたほか、竹林整備に参加した地域住民により活用されています。

photo

竹林整備着手前(2022年9月)

photo

竹林整備着手後(2022年12月)

photo

製造した竹炭の出荷

photo

キャベツ畑に竹炭散布する宮園地区の住民

加えて、2023年4月には、2m程度に成長した幼竹を塩蔵メンマにする新たな取組が始まりました。また、社会福祉法人愛生会では、2023年度には竹炭散布面積を前年比5倍の20aに広げるなど、取組規模を拡大しており、地域全体で厄介者扱いしていた放置竹林を資源として活用することを私たちは目指しています。

photo

宮園自治公民館での塩蔵メンマづくり

既存の枠組みを活かし工賃向上へ

この実践は「障害者支援施設や高齢者サロンにおいて竹林整備をヒューマンサービスの一環とする(通常の活動の一環とする)」という既存の枠組を活かした点に特徴があります。障害者支援施設は、障がい福祉サービスを提供することで、職員の賃金等について公的な制度により報酬を得ることができます。本事例では既存のビジネスモデルを活かして、障害者支援施設に対して「放置竹林」という新たな職域を導入したものです。その結果、就労継続支援B型事業所に通う利用者の全国平均工賃が令和3年度実績で16,507円(時給換算233円)のところ、竹林整備に参加する障がい者は、当該作業に限り、時給換算で600円に向上しました。私は、工賃向上が就労に対する意欲や価値観を高め、働くことを通じて社会参加することが、自らの存在価値や生き甲斐を見出し、「誰もが誰かのために、共に生きる」そんな共生社会につながるものと考えています。

竹が紡ぐ新たな畜福連携

前述の取組に加えて、竹林整備で発生する竹材を粉砕し、畜舎の敷料として活用する実証試験を、2022年12月から行ってきました。同実証試験に参加する新平畜産の新平裕一さんによりますと、従来使われているおが粉(おがくず)の値段が高騰しており、おが粉の価格は安かった時期の倍に上昇しているとのことです。

photo

敷料にするための竹の粉砕作業

2023年6月上旬にも同畜産とひふみよベースファーム大崎による竹敷料製造の試行を行いました。新平さんは「放置竹林を資源として捉え、畜舎の敷料として活用する、この取組を続けることは、畜産の町である大崎町にとって重要であり、また、私としては誰もが生きやすい社会づくりのためにも、畜福連携を進めていきたい」と話しています。

photo

新平畜産の牛舎での竹敷料と竹炭の散布

竹福商連携モデルの広がり

この実践は2022年9月~2023年3月までの間、鹿児島県大崎町宮園地区で行ったものですが、同町他地区(2地区)でも、2023年2月に開放型炭化器が導入され、周辺の住民が散策する通路沿い、学校児童が通る通学路沿いの竹林整備、竹材炭化が行われ、畑の土壌改良に使われました。また、2023年3月には、大崎町での実践をもとに鹿児島県薩摩川内市において、竹福商連携による竹の資源化を行う取組が動き出しました。

photo

障害者支援施設(合同会社情熱家)による竹炭製造

障害者支援施設、地域住民、酒造事業者の連携により、竹林整備、竹材炭化、土壌改良材として圃場への竹炭散布、サツマイモ栽培、食品加工(芋焼酎)、販売を行うというものです。私は、障害者支援施設、地域住民(高齢者サロン等)を核とした「竹の資源化モデル」は汎用性があり、他地域への展開が可能であるものと考えています。

photo

竹炭散布した圃場でサツマイモの苗植え

障がい者には障がい者の物差し

これまでに様々な障がい者と共に過ごしてきました。ここでは自らに問うことが多いです。障がい者の目線にあわせること、ここから始まります。自らの物差し、常識は通用しません。彼らには彼らの世界観があります。「普通とはなにか?目を背けていることはないか?」、あるがままに直視する必要があります。障がい者には障がい者の物差しがあります。「正当な区別」、「不当な差別」、これらは分けて考える必要があります。人の価値は能力では決まるものではありません。そして、障がい者の能力に応じた仕事を設定すること、それは差別ではなく区別です。それぞれの障がいを理解するには時間がかかります。理解しきることはありません。なお、これらのことは障がいの有無に限りません。元来、物差しはすべて違います。自らの物差しを絶対にすることは、自らも相手も苦しめます。話がうまくできなくても、竹林整備や竹炭づくりを通じて思いが重なり、かみ合うときがあります。地域の方から「ありがとう」と声をかけられる、人の役に立つ、ほめられると嬉しい、自己有用感、これらは障がい者に限らず、全ての人に当てはまるものです。

誰でも障がい者になりうる

日本は少子高齢化の進行により、2065年には現役世代1.3人で1人の65歳以上の者を支える社会が到来すると推計されています(厚生労働省、2022)。高齢化社会が深まるということは、ただ年齢が上がるだけではありません。耳が聞こえなくなる、目が見えなくなる、体が動かなくなる、意思疎通が難しくなる、誰でも障がい者の立場になりうるということを意味します。そして、誰もが「障がい」と関わる機会が増えると思われます。私は、「生きやすい」に重きを置いた、障がいに応じた合理的配慮が浸透した社会を望んでいます。聴覚障がいをもつ私にとって「生きやすい」とは、「読唇しやすいようにマスクを外してくれる」「大きな声でゆっくり話してくれる」などです。「お互いが迷惑をかけあうことに抵抗感がない」、そんな社会が誰もが障がい者になりうる時代には「生きやすい」ということにつながるのではないでしょうか。

「弱さ」を「強さ」に編集するコミュニティ

私は、参加者の働く場所と居場所を確保するとともに、参加者が「誰かのために役立つ」というやりがいを得ることが、活動継続につながるものと考えています。障がい者と高齢者が定期的に竹林整備に入ることで、お互いに「弱さ」を持つ存在がいる空間を生み出し、作業の細分化等の工夫を行うことで、「弱さ」を「強さ」に編集しなおす新たな地域コミュニティが創出されました。私は、障がいの有無に限らず共通の作業をするということ、そのことが相互理解につながるものと考えています。誰にでも「弱さ」はあります。聞こえない、ひざや腰など痛いところがある、動きにくい、歩きにくい、重いものが持てない、人とのコミュニケーションが苦手、体力が続かないなど、実に多様です。「竹林整備」という共通の仕事をすることで、お互いの「弱さ」が自然と見えてきます。「弱さ」をお互いが知り、お互いができることをする「相互補完」により、参加者が自己有用感を得ることにつながり、そのことが取組を持続的にさせることにつながるものと考えています。

最後に

障がい者や高齢者が放置竹林の整備や竹材加工の担い手となるコミュニティモデルの開発により、放置竹林の拡大防止だけでなく、働く機会の創出、就業促進につながり、さらには健康増進・生きがいづくり・社会参加の機会を創出することが可能になると考えています。また、このことは次のことにつながるのではないでしょうか。

ア 1人1人が胸をはって一生懸命働くことのできる社会づくり
障がいのある方が、今ある能力で仕事ができるように、そして、より能力を高めていけるように、作業方法の工夫・改善をおこなうことで、胸をはって一生懸命働くことできるようになること。
イ 人の特性を活かし、資源として使えるものを活かす
「誰もが働ける皆働社会」、「環境負荷の低減」の両立を目指して、地域資源の活用と障がい者や高齢者の雇用という収益と社会性を両立させたモデルを開発することで、誰もがその能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるようになること。

私は、農福連携の取組で求められていることは、支援者と利用者の一方的な関係ではなく、社会的背景の異なる人と人が支え合うつながりを創出することだと考えます。鹿児島県大崎町の事例は、この相互扶助の関係を「誰ひとり取り残さない地域づくり」につなげているものであり、目指すべき社会の一つのモデル事例ではないでしょうか。誰もが生きやすい社会を目指して、今後も取組を続けていきたいと考えています。

photo

「地域循環林業」を学ぶ職業訓練生の受入

田中力「竹福商連携による竹の資源化モデルの構築と実践-鹿児島県大崎町での実証-」一般社団法人協同総合研究所『協同の發見』所報369号、2023年8月、pp.55-61を基に加筆修正

(2023.08.24)

研究資料

参考