Researcher

「魅力あるしごと創り」でUターンを促進したい

金子 健(かねこ けん)

青森県青森市出身。青森市内の民間企業を経て、2012年4月に青森市役所に入庁。教育委員会総務課、経済政策課、観光課、経済産業省中小企業庁創業・新事業促進課への出向、新ビジネス支援課、秘書課、市民病院事務局総務課を経て、2025年4月から新産業支援課に所属。中小企業庁に出向中は創業支援事業の担当に従事。青森市に戻ってからはそのノウハウを生かし、地域に根差した創業支援に取り組む。青森市では若年層の人口減少対策のため、若年層向けの新しい創業支援施策の開発に取り組む。2025年4月に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修士課程に入学。

2025年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
2025年4月 地域おこし研究員 就任(第26号、あおもり未来共創ラボ(青森市))
※2026年3月現在
やりたいことが見つからないまま、働き方を模索してきた

高校時代は部活に没頭し、大学ではアルバイトに明け暮れていました。将来の夢も、やりたい仕事もなく、就職活動に身が入らないまま大学4年生に。時代は就職氷河期。地元・青森で働ければいい、という思いだけで新車販売の営業職に応募し、幸いにも内定を得ることができました。約3年半、車を売る仕事に携わり、とても充実していましたが、結婚して子どもができたことを機に、働き方そのものを見直すようになりました。

家族との時間をもっと大切にしたい。加えて、利益追求を最優先する民間企業の働き方に、自分の性格や価値観が合わないと感じるようになっていたんです。そこで、1年半かけて公務員試験の勉強をし、青森市役所に転職しました。正直、公務員になって成し遂げたい明確な目標があったわけではありません。でも、「やりたいことが分からないまま働いている人」って、実は多いのではないでしょうか。仕事というのは、やってみないと分からない。だからこそ、働きながらやりがいや役割を見つけていく。そのプロセス自体が、自分らしい働き方なのだと思っています。

創業支援に関わり、自分の経験が活きるフィールドを見つけた

市役所では、教育委員会や経済政策課、観光課などを経験したのち、経済産業省・中小企業庁に出向する機会を得ました。全国の創業支援事例を調査し、成功事例を横展開していくのが主な業務。各地の実践者や起業家、有識者の方々と出会うなかで、自分の視野がぐんと広がった感覚がありました。高校生向けのビジネスコンテストの運営や、アントレプレナーシップ教育の支援にも携わるなど、青森というローカルの枠を超えた経験を積むことができました。

ちょうどその頃、青森市ではスタートアップセンターが開設され、創業支援に本格的に取り組む体制が整いつつありました。中小企業庁で培った知見を、今度は自分の地元で活かしたいという思いが強くなっていったんです。帰任後は、全国の事例をもとに、ピッチコンテストや創業塾など、様々な創業支援の取組みを展開し、2023年には年間60件の新規創業を実現するなど、起業支援の成果が形になり始めました。

また、青森市では、若者の市外・県外流出を背景に、「青森市しごと創造戦略」が策定され、「あおもり未来共創ラボ(共創ラボ)」という新たな枠組みが誕生しました。この共創ラボでは、産学金官の連携によって“魅力あるしごと”を生み出すプロジェクトが進められています。自分のこれまでの経験と「しごと創り」というテーマが強く重なった感覚がありました。一度民間を経験し、公務員となり、創業支援の現場にも立ち会ってきたからこそ、できることがあるのではないかと思い、現在は地域おこし研究員として、「魅力あるしごと創り」に取組んでいるところです。

創業だけじゃない、“魅力あるしごと”の連鎖をつくりたい

若い世代と話をしているとよく耳にするのが、「やりたいことが見つからない」という声です。特に若い世代にとっては、仕事そのものよりも、「挑戦してみたいと思える環境」があるかどうかが重要なんだと感じています。そのためには、小中高のうちからアントレプレナーシップやクリエイティビティを育む教育の必要性を痛感しています。

Uターン支援にも取り組んでいますが、よく「仕事がない」と言われます。でも、実は仕事自体はある。介護、サービス業、建設業など、多くの現場が人を求めています。ただ、それが若者にとってニーズがマッチしていない。だからこそ私たちが目指すのは、「この仕事ならやってみたい」と思えるような“刺さる仕事”を生み出すことです。

起業か就職か、という二択ではなく、そのあいだに「チャレンジの場」をつくること。副業やプロジェクト単位での参画など、関わり方の柔軟さがこれからの地域には必要だと考えています。そのために、地域の側から「こんな仕事にチャレンジしてみませんか?」と、プロジェクトベースで募集をする「提案型のしごと創り」に取り組もうとしています。

移住相談の担当者、創業支援の担当者、銀行、そして地元の大学生でチームをつくり、プロジェクト案を考えているのですが、すでに若い世代が中心市街地で遊べる拠点や、インバウンド観光客の市内周遊を促す拠点など、様々な事業アイデアが出てきています。

地元に居ながら、広い視野で地域の未来を考える

SFCでの学びも、自分の挑戦を後押ししてくれています。社会起業やイノベーションの分野を学ぶなかで、「魅力あるしごと」をプロジェクト単位で提案し、そこに関わる人を募るという発想が浮かんできました。これまではなかった、移住を検討している人に「一緒にやってみようよ」と言える仕組みをつくる——そんな新しいアプローチに、今まさに取り組もうとしています。

地方に暮らしながら、全国的な視野を持ち、行政の中から変化を起こす。その一歩一歩が、自分にとっても、青森市にとっても、より良い未来につながると信じています。

地域で挑戦したいと思っている人へ

いま、青森市では学生起業や副業による地域参画を目指す若者が、少しずつ増えてきています。彼らが力を発揮できる場所をどうつくっていくか。それが、私たちが向き合うべき本質的な課題です。

地域おこし研究員としての活動を通じて、より多くの人に「地域で挑戦するチャンス」が届けられたら嬉しいですね。忙しさや制約を言い訳にせず、まずはやってみる。私自身がそうだったように、「特別でなくてもいいけど、一歩を踏み出したい」人たちの背中を、そっと押せる存在になれたらと思っています。

インタビュー・文:松浦生
(公開:2026.03.11)

参考