Researcher

三条の暮らしのなかで、防災と自治の「これから」を考える

山鼻 涼(やまはな りょう)

岩手県西和賀町出身。2021年から北海道に進学。学部時代は原子力政策と地域政治との関係の研究や、地方部における産業振興に関わるプロジェクトに参加。2025年1月に三条市地域おこし研究員に就任。4月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学。高校時代から美術と演劇を始め、現在に至るまで地方における文化芸術に関心を持っている。現在の研究テーマは、地域防災におけるボトムアップ型アプローチの開発であり、精神福祉領域で発展した「当事者研究」のアプローチの応用に関心がある。2026年度から1年間休学し、アフリカ・ガーナに海外協力隊として赴任予定。現地では女性の活躍支援に携わりながら、日本の地方部と発展途上国との間で研究を深めたいと考えている。

2025年1月-12月 地域おこし研究員(第29号、三条市)
2025年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
※2025/12/1現在
地域に入る第一歩は、お茶会と草刈りから

私は岩手県の西和賀町で生まれ育ちました。高校時代までは演劇や美術に取り組んでいましたが、同時に「自治」というものにも関心がありました。

大学では北海道に進学して、自治に関する研究のため、瀬戸内の離島・祝島でフィールドワークをしていました。祝島は、原発政策に揺れてきた島です。私はそこで、国の政策が地域の自治にどう影響してきたのかを研究していたのですが、だんだんと「政策が自治を妨げるのではなく、助ける仕組みにはなり得ないのか」と思うようになっていきました。

原発反対運動が40年以上続くなかで、立場を超えて続いている「暮らし」に面白さを感じたんです。外から来たからこそ、論文として書けることもあった一方で、自分が地域に暮らしていないことに違和感もありました。「もっと、同じ釜の飯を食べながら、地域の幸福度を高めるような取り組みをしたい」と考えて、高校時代のつながりをたどって、地域おこし研究員制度を見つけ、三条市に来ることになったんです。

研究員としてはまだ半年ほどですが(インタビュー当時)、湘南藤沢キャンパスと三条市を行き来する日々の中で、できるだけ地域に根を張ろうと心がけてきました。三条にいるときはとにかく「お茶会」ですね。まずはお茶を一緒に飲みながらおしゃべりをする。その中で、頼まれごとを引き受けたりすることもありました。あとは、自治会の草刈りや泥かき、除雪など、地域で共通する困難を一緒に味わうようにしています。

実際に生活してみないと、何に困っているのか、どんな風に暮らしているのかは見えてこない。その意味で、こうした活動が「仕事としてできる」というのは、地域おこし研究員制度の大きな魅力だと思います。

防災の研究を、制度ではなく「暮らし」から始める

私の研究テーマは「地域防災」です。いわゆるハード面の整備や予算獲得の制度設計ではなく、その地域で暮らす人たちがどんなニーズや欲望を抱えているのかを、当事者研究的な視点で捉えていきたいと考えています。

私が住んでいる三条市の下田地域では、水害が多く、20年間で2度の大きな被害がありました。補修工事の予算は下りても、それだけじゃ足りない。住民が手出しで何とかしている現状があります。でも、人口が減って、暮らしも変わってきている中で、これまで通りのハード面の「場当たり的な対応」だけでは限界があります。

困っているけど言えないこと、言葉にしたくないことを、悩みとして共有できる場があれば、それが防災力を高める土台になると思うんです。普段から悩みごとを持ち寄って話せる関係があれば、いざ災害が起きたときにも自然と支え合える地域になるんじゃないかという考えです。

楽しさがないと、人は心を開けない

 防災って聞くと、どうしても暗いイメージも持たれがちです。でも、私は「楽しさ」から入ることが大事だと考えています。社会的孤立やセクシュアリティなど、家庭や個人が抱える課題も、実は話したいと思っている人がたくさんいる。でも、「これは個人の問題」「家庭の問題」とされて、他者が首を突っ込めない雰囲気がある。

そういうときに、「Maasで高齢者の移動手段を確保します」みたいなハード面のアプローチだけでは足りないと思うんです。むしろ、ちょっとした誤解や気まずさが積もって、誰にも相談できなくなっているケースも多い。だからこそ、まずは「楽しく話す」ことから始める必要があると感じています。困りごとも、どこかヒューモラスに分かち合えるような関係性がつくれると理想です。

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自治会の活動にはできるだけ参加している

「さわやかサロン」という場づくり

いまは「さわやかサロン」という場をつくっています。三条市の下田地区にある集落で、かつて地域の民生委員さんが10年以上続けていたサロン活動が、コロナ禍で止まってしまったという話を聞き、それを「復活してみませんか」と声をかけて、始めたんです。

やってみたら、おじいちゃんおばあちゃんだけでなく、子連れの若い世代など、様々な人が来てくれて、「こんな人たちもいたんだ」と思いました。何年も、互いに楽しく話す場がなかった地域で、会話が生まれる。その場にいるだけで、個人的な信頼が戻ってくる感覚がありました。

将来的には、ここから災害や生活リスクに対するニーズを拾い上げて、「地区防災計画」などが出来たら理想的と考えています。でも、それをやるには、予定調和的なヒアリングじゃなくて、「おしゃべりの中で生まれた声」を拾い上げていくことが必要なんですよね。

まずは“ふんどしを脱いで”地域に頼る

私自身、研究者としての専門性はあったとしても、何か暮らしに役立つ特別なスキルがあるわけではありません。だからこそ「支援します」という姿勢ではなくて、むしろ自分から“ふんどしを脱いで”、地域のみなさんに助けてもらおうという気持ちでいます。

地域のコミュニティはこれまで、自治会などパブリックな仕組みによってつくられてきました。でも、それは、性別や年齢で区切られていたり、今では会議の後の呑み会すらなくなってしまったりして、プライベートな信頼関係は築きにくくなっていると思います。

「さわやかサロン」では、性別や年齢など属性の壁を超えて、「この人と話したい」と思ったら声をかけ合えるような関係性を目指しています。参加者に「最近会ってない人は?」「話したい人は?」と聞いて、かつてのつながりを掘り起こしていく。10人集まれば、100人の集落で10%です。最終的には、全員が一度は参加したことのある場になるといいですね。

自治って、きっとこういうことなんじゃないか

前に進んでいくには、プロセスを一緒に共有していく必要があります。まずは楽しい場、しゃべり倒す文化。そこからケアの場、困難を分かち合う場、そして仕組みや制度につながる場へ。すべてを一気にやるんじゃなくて、段階を経て、少しずつ積み上げていく必要があると思います。

ケアというと、自分を削って他者を助けるようなイメージがあるかもしれませんが、楽しいままでもケアはできるし、一緒に生きていける。三条市に来てから、そのように考え方が変わりました。

当初は「皆さんのための地域防災に挑戦するぞ」と意気込んで課題を聞き取っていたけれど、話はしてくれたとしても、心を開いてくれてないという感覚があったんです。「防災を進めたい」と言っても、それは行政の仕事だよね、というのが、地域住民のリアルな生活感覚なのだと思います。そうではなくて、自分が一人の住民として、地域の暮らしに頼りながら、みんながやりたいことを起点に、一緒に進めていくことが大事なんだと気づきました。

将来的には、いろんな場所をつないで、知識の移転をすることで、生活と政策をつなぐような仕事ができると良いなと思っています。生活と制度、生活と予算をつなぐような橋渡しの役割ができたら、それはきっと「自治」をつくることになる。僕は、そんなふうに自治を考えていきたいと思っています。

インタビュー・文:松浦生
(公開:2026.03.04)

参考