長野県上田市出身。2020年4月に株式会社明電舎へ入社。電力インフラ事業の営業担当として、電力会社、官公庁、民間企業向けに発変電機器やシステムの販売に従事。2024年4月より、産官学民で「小水力発電&社会課題」に挑戦する広島CSVラボの活動に参加。2025年4月から地域活性化企業人の制度にて広島県廿日市市役所に出向し、小水力発電から生み出される電力エネルギーを地元で活用しつつ、地域の諸課題を解決する施策の検討に取り組む。
| ● | 2025年4月 | 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学 |
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| ● | 2025年4月 | 地域おこし研究員 就任(第30号、広島CSVラボ) |
人々の生活を支える、社会的な役割が大きい事業に携わりたい—— 社会インフラに携わるものづくり企業として、明電舎は重電業界の中で、電力・社会システム・産業モビリティ・フィールドエンジニアリングと社会の基盤を支える事業を行っており、私の想いにぴったりでした。
入社以来、発変電事業の営業担当として、電力会社、都道府県の企業局、民間企業に対し、水力発電関連設備やシステムの提案・販売、ならびに非常時に電力供給を行う移動用電源車の販売に従事してきました。重電機器の中でも水力発電設備は、地域ごとの河川特性やダム条件に応じて仕様を設計する、いわばオーダーメイド型のものづくりです。営業の役割も単なる「販売」ではなく、構想段階から顧客と議論を重ね、社内の技術・製造・工事部門と連携しながら最適解を形にしていくこと、さらに納入後も長期にわたり安定運用を支えることにあります。社内外の多様な関係者をつなぎ、お客様にとって最適な設備を実装していくプロセスそのものに、大きなやりがいを感じてきました。
学生時代の経験として、高校時代に器楽部の部長として全国大会に出場した経験や、大学時代の学園祭実行委員会での活動を通じて、様々な立場や想いを持つ人々と一つの目標方向に向けて、形にしていく過程にやりがいを見出してきました。さらに、大学の卒業論文ではアパレル企業のマスカスタマイゼーション戦略というテーマで卒業研究を行ったことから、技術と人の協働によって個別最適を実現するものづくりの仕組みに関心を抱きました。こうした経験の延長線上に、技術と人のつながりを活かしながらお客様毎に最適な提案を構築していく現在の仕事があり、私にとっては自然なキャリアの出発点であったと感じています。

営業として経験を重ねる中で、社内外の多様な関係者とのネットワークが広がり、知識や視野も少しずつ深まっていきました。
そうした中、当社グループは「地球・社会・人に対する誠実さと共創力で新しい社会づくりに挑む」というビジョンの中で、社会のニーズを創造・探求し、経営資源を活かしながら他者と共創していく方針での事業検討をより進めていくことになりました。エネルギー転換や脱炭素の潮流の中で、お客様もまた、将来像を明確に描き切れているわけではありません。再生可能エネルギーをどう位置づけるのか、地域経済とどう接続するのか、分散型電源をどう活かすのか——選択肢は広がる一方で、目指す未来の姿は必ずしも定まっていない。まず共に目指す未来を構想し、その実現手段として設備や仕組みを設計することが重要になります。
このような中で、私は、広島県を拠点に産官学民で「小水力発電&社会課題」に挑戦する「広島CSVラボ」の研究員として活動に参加することが決まり、小水力発電から生み出される電力エネルギーを地元で活用しつつ、地域の諸課題を解決する施策の検討に取り組み始めました。この取り組みは、発電所で出来る再生可能エネルギーでどのような地域の未来を実現するのかを起点に議論するものです。まさに、地域ビジョンの先に設備や製品があるという思想を体現する挑戦でした。活動を行う中で、製品や設備を納める先にある地域住民の暮らしに、自分の視野が広がっていきました。水力発電が、地域に根づき、活かされてこそ、本当の意味で価値を届けられるのではないか—— そんな想いが芽生え始めたんです。
そんな時に出会ったのが、「地域おこし研究員」制度です。社会人としての専門性を持ちながら、地域の実践のなかで新たな価値をつくる挑戦ができる。その可能性に惹かれ、広島CSVラボの「コア研究員」として、地域おこし研究員の活動に取り組んでみたいと思い、思い切って手を挙げました。最初は月に一度広島に通うスタイルでスタートし、今では廿日市市に住み、どっぷりと入り込んでいます。

広島CSVラボは、「小水力発電を起点とした地域価値創造モデルの実証」を目的として立ち上がった産学官民連携のプロジェクトです。広島県、慶應義塾大学SFC研究所、私の所属する明電舎とグループ会社のイームル工業が中核となり、自治体や金融機関、電力に関わる地域の主要企業などを巻き込みながら進められています。
背景にあるのは、現代における小水力発電の再評価です。戦後、農村を中心に地域を支えてきた小さな水力発電設備は、経済合理性のなかで淘汰されてきました。しかし、東日本大震災以降のエネルギー転換やカーボンニュートラルの流れの中で、環境負荷が少なく、分散型で安定供給可能な中小水力発電のポテンシャルが改めて注目を集めています。
一方で、中小水力発電は事業化が難しい領域でもあります。採算性や水利権、地元の合意形成といった課題は山積みで、民間企業だけでは開発が進みにくい。機械・土木工事ともに技術的なイノベーションも必要になりますが、地域で持続的に活用するインフラは地域連携も部分も非常に重要になります。だからこそ、企業、行政、大学等、地域住民、様々な主体が連携して「発電所をつくる」ではなく、「地域の未来をつくる」。このような活動の中で、官民連携で地域インフラの維持とその先にある人々の暮らしを描く活動をしています。

最初に廿日市市に来たとき、私は地域のことを何も知りませんでした。人脈もゼロ、土地勘もない中で、ただ「発電所をつくりたい」と言っても地域の人たちは警戒します。むしろ、「また何か売り込みに来たのかな」と思われかねない。
だから、徹底的に地域を回って、話を聞くところから始めました。地元の事業者や地域づくり団体と話していくうちに、少しずつ地域の主体とその活動、そして背景にある想いを知り、地域の全体像が見えてきました。
難しいと感じているのは、こちらから一方的な提案になると地域は受け入れにくいが、地域の声や課題に単純に耳を傾けるだけでは、新たな価値創造や事業展開は難しい場面もあるということです。自治体や地域のビジョンや想いを把握しつつ、新しい視点でのアイデアや構想をもとに、丁寧な対話を重ねていくことが非常に重要なのではないかと気づきました。
同時に広島CSVラボでは、これまでの営業の仕事ではお客様だった自治体や電力会社の社員たちと、同じ目的をもって議論を積み重ねてきました。小水力発電×〇〇の掛け算のアイデアを400個以上も出し、その中からピックアップしたいくつかのアイデアは、事業化・モデル化を見据えて、具体的な検討も進めています。さらに、コア研究員がプロジェクトマネージャーとなって、地域への実装も行っていく予定です。
私は、廿日市市で実装できそうなアイデアを、自分が持っているリソースを総動員して、今まさに考えているところです。たとえば、水力発電×陸上養殖に、小水力発電を活かした鳥獣害対策、廿日市市の豊かな自然環境を活かし電力を活用した教育との連携事業など、組み合わせ次第で新しい価値が生まれ得ると思います。「電気があればなんでもできる」が密かな合言葉です(笑)

地域に入って気づいたのは、「なぜあなたがこれをやるのか?」という問いに、常にさらされることです。大学院でも、その問いは同じでありより明確に求められます。企業の看板ではなく、個人としての動機やビジョンが問われる。最初は戸惑いも多かったですが、その問いにきちんと応えられることが、個人としての信頼や自信につながると実感し、日々模索しています。
営業として培った調整力や傾聴力は、まさにこの現場で活きていくと感じます。自治体との調整、地域の多様なプレイヤーとの対話、異なる価値観をどう橋渡しするか—— そうしたスキルは、今まで以上に求められています。
同時に、地域では「成果=数字」だけでは測れない価値が重視されます。関係性や歴史、想いといった言語化しにくい要素が、プロジェクトの成否を分ける。それに気づけたことは、私にとって大きな転換点でした。
大学院での学びも、こうした変化を支えてくれました。最初の半年間に学んだ「ルール・ロール・ツール」などの学術的な概念や理論枠組みが、プロジェクトの構想を練る上でも、地域に入って活動していく上でも、大きな指針になっています。また、大学院の研究会の仲間たちとの議論を通じて、それぞれの学びが自分の中に蓄積していくという、社会人になってからはなかなか得難い機会を頂いていることを実感しています。

小水力発電所は、一度つくれば50年は動き続ける—— だからこそ、大切にしたいのは「その電気でどんな価値を生み出せるか」を地域と共に考え続ける姿勢です。私が研究対象としている中山間地域は人口減少社会に伴う地域経済の衰退、自治体の財政負担増、自然災害の脅威、里山の維持、学校の統廃合など、多様な課題が眠っています。地域に眠る資源である小水力発電の利活用を目指していますが、発電は手段であり、目的ではない。その先にある、電力を活用した、教育、福祉、農業、観光といった価値の連鎖をいかに設計できるか。そこに挑んでいきたいです。
広島CSVラボは、自治体や企業、大学、地域の人々が対等なパートナーとして価値を共創する実験の場です。インフラを「提供する」立場から、未来を「共に設計する」立場へ深化できるよう、まずは小さな実践を繋げていきたいです。その実践を通じて、自らのキャリアもまた、社会とともに更新し続けたいと考えています。