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「リサイクル日本一」のまちに誇りを持ってもらえるように

宮下 功大(みやした こうだい)

鹿児島県大崎町出身。2009年3月宮崎大学教育文化学部卒業。大学では、R言語を活用した統計教育について研究した。2009年4月大崎町役場に入庁。役場では、税務課、企画調整課、鹿児島県大阪事務所(出向)を経験。リサイクル率82.0%(2017年度実績)で「資源リサイクル率12年連続日本一の町」の大崎町で、リサイクル事業を通じた社会へのインパクトの評価や住民自治によるリサイクル事業の持続可能性について関心を持つ。2019年4月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程に入学。

2019年4月 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程 入学
2019年4月 地域おこし研究員 就任(第9号)
教師志望から役場職員へ

大学では、教員を目指して教育学部で勉強していました。憧れの先生が2、3人いて、教え子が大人になっても、その子の人生にずっと関わることができるというのが魅力的だなと思っていました。ですが、大学4年生の教育実習で赴任した学校には、不登校の生徒がいて。聞けば、難しい家庭環境で生活しているということでした。この実態を知った時、その子の状況を変えるために、地域のさまざま立場の人と連携して、バックアップできる体制をつくることや、法整備ができるのは行政だと思って。それで、行政職員になろうと思いました。また、当時の大崎町役場は、町村合併をせずに行政改革を行って、ちょうど5年ぶりに職員採用をするというタイミングでもありました。大崎町はごみのリサイクル率日本一という特徴ある自治体ですし、何より私が一番長く住んでいた町なので愛着もありました。友達も多い土地なので、迷わず大崎町役場の採用試験を受けました。

地域は面白い

役場では、さまざまな部署を経験させてもらいました。部署によって住民との関わり方が違うので、そのたびごとに大崎町のいろいろな側面を知り、そして公務員という仕事が住民にどのように受け取られているか、ということも知ることができました。

地域に入り込む面白さを知ったのは、企画調整課に配属になった時です。いわゆる地域づくりとか総合計画策定などに関わる部署で、配属した時はちょうど「地域づくり計画」策定を鹿児島県が推進している時期でした。大崎町でもコミュニティ活動を活発に広げていくための住民組織である「地域づくり協議会」を小学校区単位で立ち上げるために、町内のさまざまな集落に説明しに回ったり、一緒に計画づくりをしたり、イベントを手伝ったり・・。当時は、わけが分からずに夢中でやっていましたが、初めて地域に入りこんで、住民の皆さんと関わることができた経験でした。地域をどうにかしたいという住民の皆さんと一緒に活動する中で、こうした方々と仲間になれば役場職員としていい仕事が出来るんじゃないか、住民の方々が一生懸命やっていることを僕も協力できるところは、いつでも協力しようと思うようになりました。その辺から地域は面白いな、と思うようになったんです。

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偉大な先輩の背中を追って

私の役場人生では「住民の皆さん全員と顔見知りになる」ことを目標にしています。物理的には無理かもしれませんが、役場の先輩方を見てそう思うようになりました。ある先輩職員は、町内のどこへ行っても住民の方々から「よぅ」と声をかけられます。その先輩は、地域にどんどん入っていって住民の皆さんと一緒に活動する人なので、どこにいっても知り合いがいる。それがすごく魅力的だなと思って。つまり、役場の仕事をするにあたって、やりたいことを手伝ってくれる人、困った時に助けてくれる人が町中にいるということ。言い方を変えれば一番楽をさせてもらってるとも言えます。役所内だけでなく、住民の皆さんとしっかり向き合って、人生として裕福だなと思いました。

そして、もう一人は、企画調整課でふるさと納税を担当した時の先輩です。ふるさと納税を始めたばかりの頃、事業への協力に手を挙げてくれる事業者さんが少ない中、その先輩は町内を走り回り、最終的には40社ほど協力者を集めてきたんです。徐々に実績が出てくると、「大崎盛り上げよう」と同じ目的をもって、民間の人たちと行政が一緒に頑張っていこう、という横のつながり、輪みたいな関係性が出来ていました。今でもその先輩のところには、試作品の味見をしてもらいと事業者さんが来たり、販路開拓をどうしたら良いか相談にきたり・・・。すごく理想的な関係だなと思ったんです。

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もちろん、住民皆が役場に好意的というわけではありません。相手にしてもらえない時もあります。そういったことにも向き合って、僕も役場職員という肩書を越えて住民の皆さんとつき合っていける関係づくりを目指すようになりました。

自分が嫌だと思う道に進め

僕の好きな本に、岡本太郎の「自分の中に毒を持て」という本があるのですが、その中で「自分が嫌だと思う道に進みなさい」という一文があります。地域の中に入るのは正直しんどい。たまに、住民から文句を言われることもあります。でも、そこで楽な道を選ぶと成長はないと思うんです。住民から言われて嫌だなと思うこともありますけど、そこに通い続けることで信頼関係が生まれるし、「いつでも来てくれるよね、宮下くんは」と言われると、よかったなと思います。この本に書いてあるように、きつい道の方を選ぶ方が人生で最良だと心に留めています。SFCを目指そうと思ったのも、まさにこの言葉があったからです。

2018年4月に大崎町と慶應SFC研究所との連携協定が締結され、庁内で40歳以下の職員の公募がありました。同じ鹿児島県の鹿児島相互信用金庫から地域おこし研究員として、大学院に通っている先輩から、課題や講義について「キツイよ」と聞いていました。でも、きついからこそ挑戦してみようと思い、受験を決意したんです。

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リサイクルをしてよかったと思ってもらうために

大崎町は、リサイクル率82.0%(2017年度実績)で、12年連続日本一の記録を持つ町です。町には、自治会を母体とした「衛生自治会」という組織が155あり、まさに住民主体で27品目のゴミ分別を行っています。もちろんすぐにそれができたわけではなく、1998年から少しずつゴミの分別をはじめ、その積み重ねが今の27品目の分別と日本一の実績をつくっています。分別したごみは資源となり、新たな収益にもなっています。こうした地道な積み重ねで日本一の記録をつくり、良いことをしているはずなのですが、住民の皆さんの中にはリサイクル事業に対してあまりよく思ってない方もいらっしゃいます。より多くの住民の皆さんがもっと「リサイクルっていいよね」って思ってもらうためにはどうしたら良いか。大学院では、リサイクルをするということを通じて、介護予防や見守り、買い物支援など、衛生自治会という住民のネットワークを活かした、住民のための施策やそのためのしくみを構築していきたいと考えています。

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SFCらしさを学ぶ

春学期の大学院の講義では、さまざまな実績や現場経験を持った先生方の講義はとても刺激的でした。また、こうした講義の中で「答えがないことをひたすらみんなで議論する」というSFCらしさを学んだように思います。そして、学部生と一緒に受けた授業もとても面白かったです。18、19歳でもうそんなことを考えているんだと驚きましたし、若い世代と議論できたことは、僕にとって貴重な経験でした。そして、何よりもインドネシア語を履修できたことが印象深いです。大崎町は、JICA(国際協力機構)事業で、でインドネシアと連携していて、リサイクル技術を輸出しています。僕も2回ほどインドネシアに行きましたが、もっとインドネシアの生活や文化を知りたい、もっと現地の人たちとコミュニケーションがスムーズにできたら・・・と思っていたんです。大学院に入学して、SFCの外国語の授業の中にインドネシア語があることを知り、ぜひ履修してみたいと思いました。外国語の授業は週4コマあるので、大学院の授業や課題など両立できるのか・・・という葛藤もありましたが、そこはやはり厳しい道を選ぶことにしました。大変と言えば、大変でしたけど、大学に通うリズムができましたし、8月には1か月研修でインドネシアに滞在することもでき、簡単なコミュニケーションが出来るようになりました。

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役場職員は、「地域おこしの請負人」

大崎町役場では、集落毎に担当職員が配置され、地域のいろいろな組織に入って活動しています。活動の主役はもちろん住民の皆さんですが、事務的な作業や段取りの仕方は職員が得意だったりします。そうした意味では役場職員は「地域おこしの請負人」だなと思っています。地域おこし研究員だからという意識ではなく、役場職員である限り、僕にとって地域おこしは当たり前のことなんです。なので、地域おこし研究員だからと気負うことなく、これからも研究を進めていきたいです。そして、無事に修了することができたら、庁舎内外問わず、自分の経験や学んだことを伝える場や議論する場を積極的に創っていきたいと考えています。

社会が変わり新しい課題が出てきた時に、僕に続いて研究員になる人が出てくれるよう、この2年間で研究成果を出していきたいです。

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(2019.11.21)

研究資料

参考